ウクライナ侵攻に対するモンゴルの立場が国連非難決議で明確になった

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻について、連日さまざまな情報があふれています。奇しくもこの日は日本・モンゴル外交樹立50周年にあたる記念日。当日の朝は私も感慨深い気持ちになりましたが、昼にウクライナ侵攻の速報が入って以降、そのニュースばかり追ってしまいます。

欧米メディアはプーチン大統領を徹底的に非難し、日本メディアもその内容にほぼ追随。罪なき民間人が攻撃されるなんて絶対あってはならないと、プーチン大統領やロシアに対して次々制裁がかけられています。

一方で知人のロシア人たちに見解を聞くと、欧米メディアとは違う思いを持っている人もいます。

ある在日ロシア人は2月21日にプーチン大統領が国民に向けて1時間演説したビデオメッセージの内容を信じていると言い、「プーチン大統領はロシア国民を守ろうとして今回の行動に出た、頼もしいリーダーだ。でも日本のニュースは真逆のことばかり報じていて、悲しいし驚いている」と話していました。

国によって、メディアによって、あるいは発信者によっても情報が異なるため、この件について確信的なことが私にはわかりません。どの情報も「又聞き」でしかないというのもありますが、ロシア対ウクライナというシンプルな図式ではないような違和感も感じます。

モンゴルの立場は?

昨日、注目すべきニュースが出ました。国連総会は3月2日、ウクライナでのロシアの軍事作戦を直ちに停止することを決議し、193の加盟国代表のうち、141ヵ国が賛成、5ヵ国が反対、35ヵ国が棄権しました。

画像は「gogoニュース」より

非難決議に反対したのは、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリア、ロシア。つまりロシアを支持する立場で、納得の顔ぶれです。

興味深いのが棄権した35ヵ国で、この中にモンゴルもいます。

棄権国を列挙すると、アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ共和国、キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア、インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギス、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、タンザニア、ベトナム、ジンバブエ。

これらの国名を見ると、ロシアともともと関係の深い国もありますが、中国と近年関係を深めている国も目立ちます。中国はロシア支持を表明したので、それに追随したと思われます。

アフリカ諸国は、長く続いた奴隷制度や植民地制度の影響で欧米に対する反発が今もあり、一方で中国が膨大なお金を投資して支援したり、ロシアが軍を提供して守ったりして、中国・ロシアとの関係が深くなっています。

インドはこういうとき、片側に肩入れせず上手く立ち回るところがありますが、今回も棄権を選びました。昔からロシアと仲が良いインドは上海協力機構(SCO)に加盟しつつ、クアッド(日米豪印戦略対話)にも参加していて、今後具体的にどう動いていくのか? 影響力が増している国なので非常に気になる存在です。

黄色い国が2022年1月時点での上海協力機構の加盟国。画像はモンゴル国営テレビ「MNB」より

そして陸続きでロシアと中国に挟まれているモンゴルの場合。ロシアはもともと兄貴分のような存在で、中国とも経済的な関わりが年々強くなり、賛成票を投じるなんて許されないですよね。そんなことをしたら、おそロシア。

モンゴルは、1990年代初めに社会主義から民主主義へ移行しました。これまでは、日本を第三の隣国であるとアピールしたり、アメリカとも良い関係を築いたりして、西側とも東側とも仲良くつきすぎず離れすぎずの絶妙なポジションを維持していました。しかし今回、結局はロシア(と中国)のパワーから逃れられないことを示しました。当然だとわかっていても、重たい現実だと感じます。

今のモンゴルは全体主義ではなく自由主義の国ですが、今後はもっと中国とロシアに寄っていくのではないかと私は思います。オブザーバー国という立場を保っていた上海協力機構も、正式加盟を求める外圧がもっと強まっていくのではないでしょうか。政治に詳しいあるモンゴル人は、「上海協力機構にモンゴルが正式加盟することはあり得ない。そんなことをしたら、中露と一体化する以外に道がなくなるから」と言っていましたが……。

モンゴルの世論は?

ロシアに対して信頼感や好意を抱くモンゴル人は少なくないですが、ロシアのウクライナ侵攻については、多くのモンゴル人がウクライナ支持のコメントをSNSで発信しています。3月4日にはウランバートルで、ウクライナ侵攻反対のデモが行われました。

他方、「プーチン大統領を支持する」「国連でモンゴルが非難決議に賛成しなくて良かった」というSNSの書き込みも一部のモンゴル人の間で見かけます。

ロシア支持派に理由を聞いたら、「アメリカやNATOの支配地域が東へどんどん拡大しており、ロシアは危ない状況にある。ロシアはウクライナを侵略したいわけではなく、自衛している」「この戦争を仕掛けたのはアメリカのネオコンほうである」というものでした。また、「ロシアのおかげでモンゴルは独立することができている。ロシアなしでは、中国に飲みこまれて内モンゴルのようになる」という意見も。

ウクライナ侵攻の影響は、モンゴルで今のところ特に出ていないようですが、2、3ヶ月後にはインフレが起きそう、とのこと。コロナやオリンピック・パラリンピックがあったため、現在は食料品の輸入を中国ではなくロシアに頼っており、小麦粉をはじめ食料品の値段が上がる見込みだそうです。

追記(2022年4月26日):

ウクライナ侵攻の影響で、物価高騰とトゥグルグ安が止まりません。3月に急落し、ついに1USDあたり3000トゥグルグを超えてしまいました(参考:JETRO「モンゴルで急激な通貨安が進行、実質的な外貨両替規制も」)。

「モンゴルに良い暮らしを!」「政治家は仕事をしろ!」ウランバートルの広場で若者の抗議デモが白熱