モンゴルブランドどうつくる?

Mongolian Economy(2017年1月発行)に掲載

 

「モンゴル人といえば、だれを思い浮かべますか?」

私が100人の日本人に質問してみたら、41人が「元横綱・朝青龍」、37人が「横綱・白鵬」、13人が「チンギス・ハン」という答えでした。日本人にとって、モンゴルは「相撲」のイメージが強いです。日本の伝統文化である大相撲は現在3人の横綱全員がモンゴル人です(注:執筆当時)。

去年初めてモンゴルを訪れた私の友人が「相撲のおかげでモンゴルに関心を持った」と言っていたように、モンゴル力士たちは日本人にモンゴルと出会うきっかけをもたらしています。モンゴル相撲や馬頭琴などモンゴル文化はユニークな存在感を放っていますが、では産業面のほうのインパクトはどうでしょうか?

日本で売られているモンゴルブランドの製品はまだあまりありませんが、一つの例として、2016年4月に日本へ”GOEジュース”が輸出販売されました。モンゴルで医療・再生エネルギー・農食糧・教育など多分野のビジネスを展開するスカイ・グループ・ホールディングス株式会社(麻生義継代表取締役)が、株式会社タンゼンテクニカルプロダクトの協力を得て、大手スーパーチェーンのイオンやいなげやで販売したものです。チャツァルガン、カシス、クランベリーミックスの3種類を日本人の口に合うように味を改良し、VITAFITの工場で製造しました。

日常生活で目にできるその他のモンゴルブランドは、岩塩、チャツァルガンのワインやオイル、ウールのスリッパや絨毯、カシミアのセーター、ラクダ毛の靴下など。そのほとんどが個人規模の輸入でインターネット上で販売されているため、これらの商品の存在を知らない日本人も多いのが事実です。

チャツァルガン(別名はサジー、シーバックストーン)は日本でほとんど生息していないこともあって、認知度が低いです。しかし日本人は健康志向が強いので(もちろん他の国も)、効果的な宣伝をすれば人気が出る可能性があります。とくに女性は美肌効果やアンチエイジングに敏感。たとえばブラジル産のスーパーフルーツのアサイーは、日本女性の間で近年大ヒットしました。ところでチャツァルガンには放射線障害の保護効果があるという研究報告があるそうですが、もしこれが本当なら日本でセンセーションな話題になるはずです。もちろん、このことをアピールするためには科学的根拠に基づく実証データが欠かせません。

モンゴル政府が輸出強化を望んでいる精肉はどうでしょうか? 東京近辺にはモンゴル料理店が約10軒あり、牛・豚・鶏をよく食べる日本人にとって羊を食べられる貴重な場となっています。しかしここで食べられる羊肉はオーストラリアかニュージーランド産。モンゴルの羊は日本へ輸出が禁じられているためです。口蹄疫のリスクが大きな理由で、日本向け加熱処理肉の家畜衛生条件の基準を満たす加熱処理施設がモンゴルには現在ないのです。ちなみに馬肉は日本へ輸出できますが、一般的に日本人は馬肉を食べる習慣がそこまでありません。

2015年のモンゴルから日本への輸出額は暫定値で2,032万ドル(全輸出額の0.4%)、対日輸入額は2億7464万ドル(全輸入額の7.2%)でした。2016年1〜6月のモンゴルから日本への輸出額は480万ドル。同期間の対日輸入額は1億4,230万ドル。2016年6月に発効されたEPAの効果はまだあらわれていません。

両国関係者の努力でEPAがついに締結されましたが、これはゴールではなくまさにスタートライン。実際に果実を実らせるためには、解決すべき課題がまだいろいろ残っているようです。

モンゴルとのビジネスに16年関わり続け、6つの合弁会社を設立している麻生さんはこう話します。「強い思いがあってもそれだけでは足りません。海外への輸出ビジネスを成功させるためには、国際基準ルールに合わせてきちんとしたものを製造することが大切です。日本でモンゴル製品を売るために、販路をどう開拓してどう客に魅力的にアピールするか、ふさわしい戦略を考えることがとても重要です」。モンゴル側と日本側のビジネスに対する意識のギャップを、麻生さんはしばしば感じると言います。

海を越えるための高額な輸送コストを下げる方法も考えなければなりません。両国の関係者はお互いの考え方や好みを理解し、一緒に課題を解決する努力をして、ぜひEPAのパワフルな効果を実証してほしいです。モンゴル初のEPAを成功させたいという熱い願いに関しては、2つの国の間にギャップはないはずです。