モンゴルオリンピック委員会会長で金メダリスト、トゥブシンバヤルが泥酔して暴行事件

日本に負けず、モンゴルのオリンピック委員会も今タイヘンなことになっています……。委員会会長である柔道元オリンピック金メダリストのナイダン・トゥブシンバヤル氏(日本のニュースではツブシンバヤルと表記されることが多い)が、酒に酔って友人をボッコボコに殴るという暴行事件を起こしてしまったのです。殴られたエルデネビレグ・エンフバト氏も柔道家の青年。彼が血だらけで床に倒れている壮絶な写真がSNSで回っていました。

事件が起きたのは4月2日の夜。この日は度重なるロックダウンの合間で、ふたりはバーで飲んだ後だったのでしょうか。36歳のトゥブシンバヤル氏が、なぜ仲の良い柔道仲間であるエンフバト氏を殴ったのか、どんなやりとりがあったのかなかったのか、真相はまだ調査中とのことです。倒れたエンフバト氏を見つけた通行人が警察を呼び、すぐに病院の集中治療室に入りました。頭に深刻なダメージがあり、意識不明の重体でした。

モンゴルメディア「gogo」より(左から2番目がトゥブシンバヤル氏)

トゥブシンバヤル氏はモンゴルのヒーローです。2008年北京オリンピックの柔道100kg級で金メダルを獲得したのですが、これはモンゴル国にとっても初めての金メダルでした。さらに2012年のロンドンオリンピックでも、足の負傷を乗り越えて銀メダルを取りました。
そして2020年8月、モンゴルのオリンピック委員会の委員長にほぼ満場一致で選出されたのです。

事件直後、エンフバト氏の妻であるナイディンツェツェグ氏はSNSに血だらけの夫の画像と以下のメッセージを載せました。
「トゥブシンバヤル、なんて汚い手なの。夫があなたにどんな悪いことをしたというの? 元気で明るい彼を返して」

重症のエンフバト氏は意識がしばらく戻らず、慎重に治療が行われ、ソウルの病院へ移されました。もちろん奥さんも今一緒にソウルにいます。さらに4月半ば、トゥブシンバヤル氏の妻であるオユンビレグ氏もソウルへ飛んだと報道されています。

肝心のトゥブシンバヤル氏は事件直後行方がわからなくなっていましたが、発見されて拘置所に拘留されました。「エンフバト氏の治療費や輸送費を自分が負担する」とバトトルガ大統領が手をあげたりもして(人気とりという声も?)、罪の意識を感じたトゥブシンバヤル氏が支払うことで決着したようです。

このニュースの続報がその後も出ており、トゥブシンバヤル氏がエンフバト氏の持っていた2台のスマホを破壊して持ち去ったという話も……。スポーツ大国モンゴルにとって、オリンピックは選手にとっても国にとっても重要イベントのはず。大会を率いる委員会会長の重責を負いながら、トゥブシンバヤル氏はなぜ感情的になってしまったのでしょうか。当然、委員長の座はおろされました。さらになんと拘置所でコロナに感染したというニュースも出ています。

国民がトゥブシンバヤル氏に失望し、エンフバト氏の復活を祈っていた矢先、ソウルのエンフバト氏からメッセージが発表されました。
「親愛なるモンゴル国民の皆さん、韓国の病院からご挨拶いたします。皆さんが私の回復を祈ってくれていることに感謝します。おかげで非常に早い回復を遂げています。間も無く私はモンゴルへ帰り、100周年を迎えるナーダムのトレーニングを始めたいと思っています」

無事回復に向けて進んでいるようで良かったです。トゥブシンバヤル氏の20日間の拘留期間がもうすぐ終わりますが、黄金の柔道人生を歩んできた彼が自分のした罪を国民にどう説明し、どう裁かれるのでしょうか。

なおウランバートル在住の友人と昨日電話で話したところ、モンゴルも日本同様でオリンピックへの盛り上がりにイマイチ欠けるそうです。モンゴルは最近コロナ感染者が急激に増えており、現在もロックダウン中で、経済的にとても厳しい状況にあります。日常を生きるのがいっぱいいっぱいで、オリンピックどころではないというのが本音のようです。

追記(2021年4月28日):エンフバト氏が「間もなく故郷に帰る」とメッセージを出したというニュースはフェイクであると、彼の身内が語っているそうです。今も彼は韓国のMRIに入っており、非常に重篤な状態であることには変わりないそうです。回復を祈るばかりです。

追記(2021年 12月25日):残念ながら、韓国で治療中だったエンフバト氏が天に召されたという報道が流れました。才能ある一人のアスリートを失ったモンゴルでは悲しみの声が広がっています。心よりご冥福をお祈りします。

追記(2022年 6月9日):トゥブシンバヤル氏に禁固16年の判決が下りました。同氏は「長年いつも一緒だった友人のエンフバト氏と、残された彼の家族に本当に申し訳ない」と反省の思いを述べ、うなだれました。