Mongolian Economy(2017年10月号)寄稿記事に加筆しています
日本人とモンゴル人は、そもそも違いすぎる
「モンゴルの何が魅力なの?」と人からもし尋ねられたら、「大草原も星空も素晴らしいけれど一番興味深いのはモンゴルの人」と私は言いたいです。モンゴル人は日本人と顔がよく似ていますが、考え方は対照的と言っていいぐらい違うので、驚かされることばかりだからです。
例えばモンゴルの友人と会話するときに、「この人は私に腹を立てているのだろうか?」と気になることが過去に何度もありました。なぜならモンゴルの人は「ありがとう」「ごめんなさい」をほとんど口にせず、愛想笑いもしないからです。
モンゴルの友人にその話を伝えたら、あきれられました。「お互い信頼しあっている関係なら、お礼やお詫びをいちいち言うことのほうが距離感を感じておかしいよ! 家族や親しい友人なら、助け合うことが当たり前なんだから」と言われ、やっと謎が解けた気持ちになりました。
そんなふうに、モンゴル人と一緒にいると10分毎(?)にカルチャーショックに襲われます。
例をあげると、赤ちゃんが羊のしっぽをおしゃぶり代わりに口にモグモグくわえている、街で見知らぬ人がいきなり手を握ってくる(足がぶつかったときのしきたり)、つぶれるまでお酒を飲みたがる、やたら肉ばかり食べたがる、個人プレーが得意でチームプレーが苦手(過去にオリンピックでモンゴル選手が獲得したメダルは個人競技ばかり)、先の計画を練らず楽観的に考えてとにかくすぐ行動に起こす……。
多少の戸惑いはあっても、異文化コミュニケーションは刺激的で楽しくもあり、モンゴル人を知ることで今度は日本人の特徴が見えてくるのが面白いです。
モンゴル人のビジネスマンが日本人に対して思うこと
モンゴル人からすれば、周囲との調和を重んじて自分をあまり主張しない日本人は摩訶不思議な生き物に見えるようです。「中国人は1日で決断し、韓国人は1週間で決断し、日本人は1ヶ月たっても決めない」というジョークは、モンゴルのビジネスマンの間で有名です。
モンゴル人と日本人のビジネス交渉の場において通訳業をしているモンゴル人女性いわく、「お互いの考えを私が通訳して伝えるとき、双方が『相手の要求を理解しがたい』という感じの表情になる瞬間がよくあってハラハラします。
たとえば、これからビジネスを始めようと話し合っている場面があるとします。
日本人は 『もし事故が起きたらどうする?』『もし設計図通りの形に仕上がらなかったらどうする?』 など、まだ起きていないリスクを先まわりして心配し、モンゴル人に尋ねる傾向があります。
対してモンゴル人は『もし今後何かハプニングがあったら、そのときにまた一緒に解決法を考えればいい』と思っています。モンゴル人はやる前から慎重に計画をするよりも、まず先にどんどん実行してから状況に合わせて後で調整していくのです」
ムラ社会の日本人と遊牧社会のモンゴル人
両者の考え方が違う理由として、一説では、日本人の気質は島国での定住型農耕生活で培われ、モンゴル人の気質は大陸での移動型遊牧生活で培われてきたからだと言われます。
ムラ社会の日本人は近所の家々と稲作を共同で行うので、周囲との調和を保ち続けないと生きていけません。調和を乱すと村八分になるので周りの目を気にします。
一方、遊牧民のモンゴル人にとっては、家畜の繁栄が生命線となります。そのため誰もまだ見つけていない良い牧草地をいち早く発見し、チャンスだと思えばすぐにそこへ移動して遊牧生活をする行動力がないと、他人に先にとられてしまいます。遊牧生活を営むには広大な土地が必要でモンゴルは人口密度が低いため(面積は日本の約4倍、人口は約300万人超)、ムラ社会とは真逆の「近所に人がいない社会」です。気が合わない人がいれば別の場所へ移動すればいいだけなので、人目を気にする必要もなく、相手に文句があれば我慢せずその場で堂々と口にします。
モンゴルの遊牧民は、羊(優柔不断でおとなしい)とヤギ(気性が荒い)をわざと混ぜて群れを作り、放牧します。羊のみの群れだとなかなか動こうとしないため、ヤギを入れることでヤギがリーダーになり、群れとして機能するそうです。そのやり方に利点があるように、日本人とモンゴル人もキャラクターが違うからこそ互いに学べたり、利点が生まれることがあると思います。
大相撲のモンゴル力士
さて、2017年はモンゴル・日本の外交樹立45周年にあたる年。二国をつなぐ太い架け橋といえば、やはり大相撲。
19年ぶりに誕生した日本人横綱への期待が大きく膨らんで、大相撲は連日チケットが完売する人気ぶりです。しかし、かつて豪快な取り組みで相撲を熱く盛り上げていた元横綱・朝青龍関や、賭博問題で相撲人気が低迷していたときに一人横綱として大相撲を支え続けた横綱・白鵬関の功績も、私たちは忘れてはいけないと思います。
彼らスーパーヒーローに憧れ、日本に相撲留学するモンゴルの少年も増えています。今年の高校インターハイでは決勝戦でモンゴル人の留学生同士が対戦し、史上初めての外国人高校横綱が生まれました。その指導者である鳥取城北高校相撲部顧問のガントゥクス・レンツェンドルジ先生は、照ノ富士関、逸ノ城関、貴ノ岩関、石浦関、水戸龍関など人気力士を何人も育成し、舞台裏で大相撲に貢献しています。
大相撲のモンゴル力士こそ、多くの日本人にとって最も身近な「モンゴルの印象」。彼らのふるまいに対し非難の声が出ることもありましたが、大相撲は深い歴史を持つスポーツなので、外国人も日本のスタイルにきちっと従ってほしいと思う気持ちもわかります。しかし文化の違いに戸惑いながらも、異国でトレーニングを重ねて強い力士に成長し、大相撲を盛り上げているモンゴル力士たちには、感謝の気持ちを伝えたいです。
個人的に感じるモンゴルの良い印象
・コミュニケーション能力が高い(どこでもすぐ他人に話しかける。草原でも街でも人々がいつも楽しそうに会話している)
・親を大切にして、人と助け合う(モンゴルを旅していると、数えきれないくらい現地の人に助けてもらうことになる)
・伝統的しきたりと遊牧文化(先祖から継がれてきたユニークなしきたりと遊牧文化に、モンゴル独自の精神と知恵が含まれている)
・ジョーク、酒、歌、ダンスが上手(「アジアのラテン」と言われるほど陽気!)
個人的に感じるモンゴルの悪い印象
・日本の援助で建設した新国際空港が何年経ってもオープンしない(追記:2021年7月にやっと開港)
・学校や幼稚園や産婦人科施設が足りない(と現地の女性たちが怒っている)
・若者に肝炎キャリアが多い(モンゴルの若者からよく相談される)
・酔っ払い、スリ、車、大気汚染などの諸問題(女性や外国人が安心して1人で出歩ける街になれば観光客がもっと増えるはず!)