野菜と電気を同時に作ることで「生産者の所得を倍増させたい」――”農業界の革命児”がモンゴルに渡ったワケ

「農業を支援し、農家の所得向上に貢献する」ことを理念としてきたファームドゥ株式会社。自身も農家の生まれである岩井雅之社長が群馬で1994年に創業した同社は、今年で25周年を迎えた。

現在はファームドゥホールディングス(本社・前橋市)を核に、農産物の直売店舗を運営するファームドゥ、野菜や果物の農園を運営するファームクラブ、太陽光発電事業を行なうファームランドなど、グループ会社4社で農業ビジネスを展開している。

もともと、同社は95年に農業資材の専門店「ファームドゥ」をオープンしたのを皮切りに、朝採り野菜や手作りの加工食品を販売する「食の駅」、生産者が野菜の値段を自分で決めて都会の店舗で販売できる「地産マルシェ」など、農業分野での幅広い店舗経営を展開。

両親の苦労を見て育った岩井社長は「生産者さんが喜ぶ顔が見たい」と、零細農家の自立支援につながる事業をこれまで積極的に行ってきた(前編記事参照)。

だが、2011年の東日本大震災で状況が一変。原発事故の風評被害で東京都内の店舗の野菜の売上がそれまでの3分の2に急減し、さらに、前橋市にある本社や自宅が計画停電地域に入り、電気が止まった。

震災をきっかけに、岩井社長は太陽光発電事業への参入を決断。群馬県内を中心に、休耕地などを活かした「ソーラーファーム」事業を始動させた。

農家から耕作放棄地を借り、ファームドゥが費用を負担して太陽光発電設備を建設する。その後、太陽光パネルの下で野菜を栽培しながら、再生可能エネルギーを電力会社に売る。こうして得た農業と売電の二つの稼ぎで農家の所得を向上させることがソーラーファームの狙いだ。

実際、ソーラーファームを導入した農家は、「農業のみでの運営に比べて20年間の平均売上額が約2倍、利益も約2倍になる」(岩井社長)という。

こうした利点もあって、ソーラーファームは群馬県内を中心に年々増加。そして現在、ファームドゥグループは群馬県を中心に125ヶ所に太陽光発電所を設置し、そのうち42ヶ所がソーラーファームとなっている。

ファームドゥグループは、太陽光発電を5年で約32億円売り上げる主力事業に育て上げた。岩井社長が語る。

「いま日本には耕作放棄地がたくさんあります。これを活用する人がいない状況が続いていますが、太陽光発電と野菜の栽培を一緒にすることで、耕作放棄地はよみがえります。すると今度は農業収入と電力収入が安定的に入るので、農業の担い手が増えていく。

今後の日本を考えれば、農業を若者にとって魅力ある産業にしていかなければなりません。ソーラーファームはそれを実現するシステムになると考えています」

岩井社長は「新しい農業のかたち」と位置づけるこのソーラーファームを海外に展開する事業もスタート。昨年11月には”草原の国”モンゴルでも本格稼働させたというので、その現状を知るべく筆者は8月中旬に現地を訪れた――。

成田空港からチンギスハン空港まで直行便で約5時間。日本の約4倍の国土を持つモンゴルだが、人口はたったの313万人で、世界で最も人口密度が低い国とも言われる(1平方キロメートル当たり約2人)。

国民のほぼ半分が集中する首都・ウランバートルには高層ビルが立ち並び、大都市を形成する。道路を行き交う車の量も多く、中古のプリウス車が目立つ。「中古なのに丈夫だし、燃費がいいのが素晴らしい。プリウスは僕の”愛馬”だよ」。運転手を生業とするモンゴル人男性はそう言った。

まだ道が混み始める前の朝早く、取材に同行することになったモンゴル人女性記者の車に乗せてもらい、ウランバートル中心部から北西へ向かった。しばらく走るとビルは消え、ゆるやかな起伏の草原が目の前に広がった。今年は雨が多く降ったおかげで鮮やかな緑に色づき、車の窓を開けると風に混じってハーブの香りが心地よく鼻をつく。

そして、1時間半ほど国道を走り続けると、道沿いに整然と並ぶ太陽光パネルが出現した。

「モンナラン農園」である。ファームドゥが現地の企業(ブリッジグループ)と合弁で設立したエブリデイファームが運営する農園だ。面積は東京ドーム6個分に当たる28ヘクタールに及び、その敷地内にはモンゴル国内第2位(取材時点)の規模を誇るメガソーラー(大規模太陽光発電所)がある。ファームドゥが建設したものだ。……

続きはこちらから➡️ 週プレニュース(2019.9.30)