コロナ禍、スポーツ大国のモンゴルでは多くの人が東京オリンピックに夢中になっていたようです。とくに人気の種目は柔道とバスケ。柔道81キロ級で銀メダルを獲得したサイード・モラエイ選手も、テレビ観戦するモンゴル人たちから熱視線を受けていました。しかし彼は明らかにモンゴルの顔ではないため、日本で見ていて違和感をもった方もいたのではないでしょうか?
イラン出身のモラエイ選手はなぜモンゴル国籍に?
モラエイ氏はもともとイラン出身ですが、政治的な事情でイランからモンゴルへ亡命しました。以下のような経緯がありました。
2019年に東京で行われた柔道国際大会に、モラエイ選手はイラン代表として出場しました。そこで問題が起きました。決勝でイスラエルのサギ・ムキ選手と対戦する可能性が訪れたのです。もしそれが実現してしまうと、イランにとってはマズイようです。
なぜならイランは反イスラエル国家。両国は宗教的に対立しており、イランはイスラエルの存在を認めていません。そのためイラン政府はモラエイ選手に、大会の途中で負けるか棄権するよう圧力をかけていました。家族への脅迫もあったようですが、モラエイ選手は屈することなく出場を続けました。その結果モラエイ選手は5位に、サギ選手は優勝を果たしました。
その大会後、モラエイ選手がイランへ戻ることはありませんでした。命が危ないため、ドイツに難民として渡ったのです。そんな彼に手を差し伸べたのが、柔道に力を入れるモンゴルでした。モラエイ選手はモンゴルへ亡命し、国際オリンピック委員会からもモンゴル国籍変更が認められ、無事に東京オリンピック2020に出場できました。
モラエイ選手は「自分は柔道家でアスリート。スポーツと政治は別」だと堂々と述べ、同じアスリートとしてイスラエル選手を讃える発言もしました。彼が母国イランの地に戻ることは二度とないかもしれませんが、己の身をもって世界へスポーツマンシップを示したのです。
「フェイクニュースを信じないで」
今夏モンゴルのメディアはオリンピックに関する話題で連日盛り上がりましたが、とりわけモラエイ選手の記事の数は多く、モンゴルでの人気ぶりが伺えました。
9月27日にはモンゴルのオユンエルデネ首相が、東京オリンピック・パラリンピックでメダルを獲得した選手たちを表彰。銀メダリストのモラエイ選手には6000万トゥグリグ(約234万円)と2部屋のアパートが授与されたことも話題に。
しかし同時期、オリンピックを終えた彼がドイツへ移住するという噂が一部のモンゴルメディアで流れ、ついに本人からメッセージが出ました。
「数週間前、私がドイツ国籍を取得するという誤った噂がありましたが、私はモンゴル国民になれることを嬉しく思っています。このメダルをモンゴルの皆さんへ捧げます。どうか嘘のニュースを信じないでください。私はモンゴルの皆さんのことを忘れないと約束します。
私は時々ドイツに行かなければなりませんが、私の帰る国はモンゴルであり、これからもここでトレーニングします。間もなく集中トレーニングを再開し、パリのオリンピック大会の準備を始めます。モンゴルの皆さん、いつも応援してくれてありがとうございます。私は今、自分の家に暮らすことができて幸せです」
参照:サイード・モラエイ氏「私はドイツ国民ではありません。モンゴル国民であることを嬉しく思います」(gogoニュース)
本人が断言したように、モラエイ選手はこれからもモンゴル人として柔道家の道を歩んでいくそうです。勇気ある彼が、パリでどんな活躍を見せてくれるのか楽しみです。