共同通信の連載 「つながるモンゴル」No.3〜子ども力士の奮闘記

共同通信の連載3回目は、日本式の相撲を学ぶモンゴルの子どもたちの話です。

東京新聞 2025年6月26日夕刊掲載(共同通信配信)

大相撲で、モンゴルの力士が活躍するようになって久しい。彼らの強さの秘密は何だろう?

「モンゴルは、冬にマイナス40度まで下がることもあり、寒い。そんな環境でも、幼いころから水くみしたり、家事をしたり、自立して生活する子が多い。また、自分の意見や権利をオープンに主張する積極性もある。そういう点が、強さに影響しているかもしれない」

こう話すのは、ウランバートル市内にある、オーダムモンゴル一貫教育学校で校長を務めるナランバタさんだ。自身、前乃雄という大相撲の幕下力士だった経験を持ち、日本式の相撲を生徒に指導する。

放課後、相撲クラブに通う子どもたちが、道場に集まってきた。短パンの上に、まわしをしめ、元気にあいさつ。続いてランニング、四股、すり足と、声を出しながら基礎練習を行う。同じ道場内で、モンゴル相撲の衣装を身につけた大人の選手も、汗だくになっている。国民的行事「ナーダム祭」の相撲大会出場を7月に控え、特訓しているという。

一方、街から離れた、モンゴル西部のバヤンホンゴル県。大分県労働者総合生協の支援で設立された、バヤンホンゴル県総合生協学校でも、同校で体育教師を務めるガンホヤグさんが、相撲クラブで日本式の相撲を指導する。夏は、草原に布製の土俵を広げ、青空の下で練習することも。そのそばで、放牧中の羊とヤギが、のどかに草を食む。

相撲を学ぶモンゴルの子どもたちに、将来の夢を尋ねると、「大相撲で横綱になる」という答えが多く返ってきた。彼らの目下の目標は、元横綱白鵬が主催する「白鵬杯」や、日本相撲連盟と東京青年会議所が主催する「わんぱく相撲全国大会」に、モンゴル代表選手として出場すること。好成績を残せば、高校の相撲部や相撲部屋にスカウトされる可能性もある。

2025年2月、両国国技館で「第15回白鵬杯」が開催された。中学生の部で優勝したのは、鳥取市立西中学校に留学中の当時1年生だった、チルグン選手。留学前は、ナランバタさんの相撲クラブで練習を重ねた一人だ。

モンゴルの子どもは、ストイックに角界入りを目指しているのかと思いきや、ナランバタさんは、「子どもたちには第一に、相撲を楽しんでほしい」と語る。チルグン選手の両親も、「息子が将来進む道が、大相撲でなくても、心から応援したい」と言う。のびのびしている。

日本のみならず、遠く離れた草原の国でも、未来の横綱を目指す子どもたちが今日も練習に励む。