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昔流行った「コロッケの唄」をモンゴル風に変えるなら、今日も肉うどん〜 明日も肉うどん〜 これじゃ年がら年中肉うどん肉うどん〜♪ 私がかつて居候させてもらった遊牧民家庭では食事が毎日肉うどんだった。数日で私は飽きてしまったが、遊牧民家族はみんな美味しそうに食べていた。
モンゴル家庭料理のレパートリーは、刻んだ肉と小麦粉の麺を煮こんだ肉うどんの他に、肉入り焼きそば、蒸した肉餃子、揚げた肉餃子、骨付き肉の塊と内臓をダイナミックに茹でた鍋……。肉以外の素材は小麦粉と玉ねぎなど少量の野菜くらいで、味つけは塩のみのシンプルスタイル。香辛料は使わない薄味だ。
肉は自分の家畜から得る。どの遊牧民家庭でも羊と山羊が数百匹ほどいて、放牧に出ていない朝晩はゲルのそばをうろうろしながら草を食んでいる。ふだん人間が近づいても羊たちは驚かないのに、これから屠ろうという気持ちで人間がやってくると何かを察するらしい。目を合わせないようにクルッと後ろを向き、一目散で小走りに逃げていく。
張りつめた空気のなか1匹の羊に遊牧民の手が伸びるが、羊は必死にすり抜け猛スピードで走り出す。遊牧民もダッシュで追い、羊はついに脚を捕らえられると「メッ……」と小さく叫ぶ(これが気性の荒い山羊だと人間を何度も蹴飛ばし大声をあげて暴れるので大変だ)。
モンゴルの草原では、神聖な大地に血の1滴も流してはいけないというルールがある。屠殺を行うのは男性の仕事で、まず羊を仰向けに寝かせてナイフで胸に切りこみを入れ、手を突っ込んで心臓近くの大動脈をちぎる。こうすることで羊が長く苦しまずにすむという。空を見ていた羊が息を引き取ると、皮を肉から剥がす。この即席絨毯の上で解体作業をする。
おなかを開くと温泉のようにもくもく湯気が立ちのぼり、狭いスペースに収まっていた内臓がボヨンボヨンと勢いよく飛び出してくる。腹腔に流れ出す血液を柄杓で丁寧にすくいバケツに移しながら、ピンク、黄色、灰色と異なる色をもつ内臓を1つずつ取り出す。おなかが空っぽになった後は、関節部分で骨を折り、肉をばらしていくという手順。
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⬇️全文(残り約1000文字)は月刊望星2019年6月号でご覧ください。