ウランバートルのゲル地区在住の友人ターニャの家に泊めてもらったときのことです。
ある晩、生まれて間もない赤ちゃんが激しい夜泣きを始めました。
どんなにあやしても泣きやむ気配がありません……。
するとターニャはキッチンへ行き、ロウソクとマッチ、水を入れたおわんを準備。
ロウソクを熱し、溶けたロウを水の中にポトンと落としました。
「なにを見て怖がっているの?」と唱えて、
時計回りに3回、逆回りに3回、ゆっくり水をかき回し……
今度は旦那さんが、おわんの上で、抱き上げた赤ちゃんをゆっくり揺らします。
そしてターニャが固まったロウを水から出し、
じーっとよくよく眺めて「……犬だ!」と言いました。
私にはむにゃむにゃの白い塊にしか見えませんでしたが、
ロウに犬の顔が浮かび上がっているというのです。
つまり赤ちゃんをひどく泣かせていた犯人は、
怖ろしい犬の魔物だったというわけです……。
魔物が映しだされたロウの塊を北の方角へエイっと投げ捨てて、儀式は終了。
赤ちゃんはすっかりおとなしくなり、すやすや眠ってしまいました。
この儀式は、もともとスズなどの金属を使っておこなっていましたが、
熱すると危ないのでロウソクで代用するようになったそうです。
おまじないの効果を目の当たりにした不思議な夜でした。