アルコール依存を克服して再び走り出したモンゴル人気ラッパーと、真っ只中にいる元エリート

モンゴル人のFacebookのタイムラインを見ていると、1、2日おきに流行りの話題が目まぐるしく変わっていきます。10月末はハロウィーンの話で盛り上がるのかなと思いきや、アルコール依存についての投稿が多かったです。

話題になっていたのは、下の画像の男性が出ていたインタビュー動画。Facebookでこの動画は5000件以上シェアされ、モンゴル人の間で拡散されていきました。

彼はアルコール中毒に陥り、食堂で人が食べ残した物をもらって生きています。モンゴルではアルコール依存が深刻な問題で、昼間でもアル中の人が道をふらふら歩いている光景に出くわします。アル中の人を見かけること自体は全然珍しくないですが、この男性に人々が衝撃を受けているのは、彼が流暢な英語を話し、元エリートのキャリアを歩んでいたことを動画で語っているから。ウランバートルで生まれ、モスクワ大学を卒業し、結婚して子供が生まれて「順風満帆」な暮らしをしていたのに、なぜアル中に?

この男性に対し、Facebookでは「英語を学ぶ努力ができたんだから、この状況から抜け出す努力をしよう」「人生は長い、この後に続く道は死ぬか立ち上がるかだ。立ち上がれ!」「こんな現実が溢れているウランバートルの街を市長は直視しろ」などのコメントが溢れました。彼と幼なじみだという私の友人は「学生時代は優秀な奴だったのに、今こんな姿を人々に見せていて衝撃だ」と話していました。

モンゴルでは、生活の苦しさからアルコール依存に陥るケースだけでなく、生活が満たされて目指すものがなくて酒を飲んでいるうちにアルコール依存に陥るというケースが少なくないそうです。かっこいい車や家を手に入れたり会社の社長になったりして、自分の欲しいステイタスをいざ手に入れたら人生の目標を失って、気づいたら依存症になっているというのです。

一方で、長年アルコール依存症に苦しんでいたものの、酒を断ち切ると決めて自身を制し、必死でそこから抜け出して再び表舞台に立とうとしているラッパーもいます。モンゴルでかつて大人気だった二人組のヒップホップユニット「ホユルフー」のガワナです。

10月末、ガワナは自らFacebookに上の写真を添えて投稿しました。「誰にも言ったことのないことを言うよ……」という書き出して始まり、これまでアルコールに溺れて苦しんできたこと、それを克服して自分の体験を綴った歌を出すことなどが書かれていました。

昨年の夏、私が友人たちとバーベキューに出かけたときにガワナも来て、そのときの彼はお酒を飲んでいました。しかしその後完全に酒を絶ち、自分の意志で依存症を克服したそうです。彼をよく知る人たちによると、ものすごい覚悟と努力をしていたそうです。しかもそのことを包み隠さず歌詞に書き、昨日リリースした歌がこちら。

かつてホユルフーとして活躍し、大勢の人々に囲まれて暮らしていたのに、(当時の)妻が浮気し、自分はアルコール依存症に陥り精神的にも病んで、心配した母親が助けてくれて……でも今は酒をやめたと歌っています。リリース後、ファンからは「ガワナのカムバックを待ってた!」と喜びのコメントが寄せられています。

島村一平先生の『ヒップホップ・モンゴリア』にもホユルフーが登場しています。