アジアの空と芸術の神がモンゴル映画『シティ・オブ・ウインド』を祝福した日

モンゴル映画界にとって素晴らしいニュースが2つも届きました! ポルトガル在住のLkhagvadulam Purev-Ochir監督(日本のメディアではラグワドォラム・プレブオチルと表記 )による映画『シティ・オブ・ウインド』が大快挙です。

©Aurora Films, Guru Media, Uma Pedra No Sapato, Volya Films

まずは3月10日午後、大阪アジアン映画祭にてグランプリを受賞しました。その前日に同映画祭で上映され、アフタートークで監督が登壇。そのときの内容がナタリーで以下の記事になっています。

米アカデミー賞モンゴル代表「シティ・オブ・ウインド」監督が描きたかったものとは

監督は9日朝に日本を発ち、その足で香港のアジアン・フィルム・アワードへ。そして10日夜に開催された同映画祭の授賞式で、主演を務めたテルゲル・ボルドエルデネさんが「ベストニューカマー(最優秀新人賞)」に選ばれました。そのときのライブ動画でスピーチが見られます(55分20秒後から)。名前を呼ばれ、緊張しながら立ち上がる彼の横で喜んでいる水色のドレスの女性がラグワドォラム監督です。

テルゲル・ボルドエルデネさんは昨年の第80回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門でも新人俳優賞を獲得し、モンゴルでもニュースになりました。

シャーマンとして生きる高校生男子の物語

この映画は大阪アジアン映画祭で日本初公開されました。「上映後、映画を観にきてくれた日本の方々からサインや写真撮影を頼まれて感激しました」と監督談。ポルトガル人の旦那さんが日本のマンガの大ファンで、今度は彼も連れて来日したいとのこと。『シティ・オブ・ウインド』の今後の日本公開予定は未定ですが、改めて配給されることに期待です。

©Aurora Films, Guru Media, Uma Pedra No Sapato, Volya Films

映画の主人公は、ウランバートル郊外のゲル地区にクラス高校生の青年ゼー。彼は学校に通いながら、空いた時間でシャーマンとしての役目も果たしています。ある日彼はシャーマンの儀式を通じ、心臓手術を控えた女の子マララーと出会い恋に落ちます。天に仕えるシャーマンとしての生き方と、ちょっと大胆で可愛い彼女に夢中になる日常生活との間で、主人公は次第に葛藤していきます。

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興味深いのは、ナタリーの記事で監督が「映画では都市部に住む人と、遊牧民的な生活をしている人たちがつながりを維持しているところを見せたいと思ったんです。ただ、両者の関係性ははっきりしていて、それぞれが自身のスタイルを貫こうとしています」と語っていること。

さらに「政府は都市化をどんどん進めていますが、私自身はゲル地域を保存し、アイデンティティの1つとして保つべきだと思っているんです。モンゴルではゲル地域は貧困地域といった印象を持たれがちですが、私はこの地域こそが重要だと考えていますし、追いやられるような場所ではないと思っているんです。主人公もゲル地域に残り、そこで再出発する姿を描きました」と言及したそうです。

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私はこのアフタートークに参加できなかったので、実際に監督がどんな話をされていたのかはわかりません。しかし約7年前に留学のためモンゴルを離れ、現在ポルトガルに拠点を持つ監督が母国に抱く思いについて、興味深いと感じました。離れているからこそ、客観的に見えるものもあると思うのです。

香港で授賞式があった夜、ドルマー監督へお祝いのメッセージを送ったら、いただいたお返事に「アジアの空と芸術の神が見守ってくれた素晴らしい日になりました」とありました。モンゴル人やフランス人のプロデューサー陣との強力なチームで、すでに次回作の制作も始まりつつあるそうです。テーマはなんと大相撲! 楽しみです。