4度目のチャーター機で263人がモンゴルへ帰国
本日7月4日、成田からウランバートルへ飛んだチャーター機が無事に離陸しました。乗っているのは、新型コロナウイルスの影響でずっと帰国できずにいたモンゴル国民263人です。この中には、2週間の短期滞在予定で日本に来たら、半年も帰れなくなったという人もいます。
中国とロシアに挟まれているモンゴルは、超ストイックな感染予防政策を実施してコロナの封じこめに成功しています。現時点での感染者は220人(全員が海外からの帰国者で市中感染はなし)、死者はゼロです。
政策の一つとしてモンゴル政府は国境を2月末から封鎖し、その結果、世界各国で足止めされているモンゴル国民が1万人います。日本にいるのは965人で、そのうち4分の1が今日モンゴルへ帰国しました。彼らが国へ帰るためには、モンゴル政府が飛ばすチャーター機に乗るしか方法がありません。チャーター機はこれまでに3月、4月、6月に1便ずつ来て、今日が4便目でした。
帰国希望者リストに名前がある人の中から、誰がチャーター機に搭乗できるかを決めるのはモンゴル政府です。該当者は、チャーター機が出発する数日前に在日本モンゴル大使館から電話連絡がきます。そのため出発日が近づくにつれ、帰国希望者たちは希望と不安を感じながら電話が来るのを待ちます。今回の飛行機に乗れなかった人も当然たくさんいて、次のチャーター機に乗れることをただ祈るしかありません。
妊婦、幼児連れの家族、高齢者、障がい者、学生の5つの条件に該当する人が優先して搭乗できることになっていますが、実際にはその人たちより先に一部の政治家や実業家やその関係者が搭乗するところが目撃され、ワイロの噂が出て一般の人たちを不安にさせています。
帰れない人たちの悲喜こもごも
5月頃から、日本で足止めになっているモンゴル人たちの悲痛な声が聞こえてくるようになりました。
特によく聞くのが、3月に日本の大学を卒業して4月に帰国予定だった元留学生たちのケース。賃貸で住んでいたアパートを退居して住む場所がなくなったり、自粛期間中でアルバイトができず生活費がなかったり……。精神を病んでしまった元留学生や、自身が妊娠中かつ幼い子どもも一緒にいるのに生活費が底を尽き、不安な思いをしていた女性もいました。
モンゴルの旧正月を利用して日本に暮らす子供や孫に会いに来たら、何ヶ月も帰れなくなってしまったというおばあさんもいました。この方は日本に滞在先があるのがまだ救いですが、ストレスで持病の高血圧が悪化して倒れ、東京の病院で処置を受けていました。
またある若者は、6月の国政選挙に出馬予定だったのに書類提出が間に合わず、断念しました。
家がないので外で過ごしていたところを日本人に保護されて役所に連れて行かれた人や、「お金が尽きて、モンゴルにいる家族から生活費を送金してもらっているのが申し訳ない」と話す若者にも会いました。
ある姉妹は、旅行目的で日本へ来たら帰りの飛行機がなくなってしまいました。日本語を全く話せないので、在日モンゴル人のツテを頼って数日おきにモンゴル人の家を泊まり歩いたそうです。現在は宮城県のモンゴル人宅に居候中で、その家はもともと7人家族なのに同じ境遇の人が集まって合計13人で暮らしているそうです。
一方でこんな話もあります。パラリンピック合宿のために静岡県焼津市に滞在していたモンゴル人選手団は、コロナの影響で4ヶ月間足止めされていました。その間地元の人たちから手厚く歓迎され、日本で良い時間を過ごすことができたと嬉しい気持ちで帰国したそうです。
新型コロナ転じて「特別市民」に 焼津で足止めのモンゴルパラ代表に友情の証し
在日モンゴル大使館へ抗議に行った
パラリンピック選手団のような話を聞くとほっとしますが、実際は、帰れないモンゴル人の多くが不安と焦りの中にいます。彼らにとって一番辛いのは、自分がいつ帰れるのか検討がつかないこと。コロナの問題は世界共通であり、仕方がないと言えるのかもしれません。しかし日本での滞在期間が延びるほど、金銭的にも健康的にも困難が増していきます。
彼らはFacebook上のグループでつながって励ましあい、日本以外の国で同じ状況にあるモンゴル人たちともリアルタイムで情報交換しています。先が見えない状況の早期解決を求めて、一部の有志が6月18日に在日本モンゴル大使館を訪れました。早く迎えに来てもらえるようモンゴル政府に至急交渉を行うこと、日本で困窮するモンゴル国民を助けてほしいことなど、要望を書面にして訴えたのです。
その5日後、大使館から彼らに書面で返答がありました。その中の一部は以下のような内容です。
・ 宿泊場所や生活費がなく困窮している人のうち、特別な事情のある6名に対しては、帰国日までの宿泊場所を大使館で提供します。その他の人たちについては、日本モンゴル友好関連組織や大相撲の力士たちにも相談しながら検討中です。
・ 短期滞在者で健康保険証を持たない人が病院に行きたい場合、指定の病院であれば一部費用免除で受診できます(ただし重病者は除く)。
・ 日本のコロナ感染状況や日本政府からの通達などの最新情報は、在日本モンゴル大使館からモンゴル政府と国家非常事態特別委員会へ1日に2回報告しています。
・ モンゴル国民の帰国支援については、モンゴル国内のさまざまな状況(感染状況、病院や21日間の隔離施設の空き状況、医療従事者のキャパシティーなど)や、日本以外の国々にも帰国希望者がいることを考慮して、病院や専門機関とリスク分析をしながら実施しています。
・ 日本からの帰国を希望するモンゴル国民は現在965人いて、7月に500人、8月に500人が帰れるよう現在調整しています。搭乗の優先順位は、高齢者、妊婦、幼児とその家族、学生、経済的に困難な人、短期ビザの人、泊まるところがない人です。
そして今日7月4日、実際にチャーター機が来ました。次に来るのは7月21日。その次は8月の……いつになるのかは誰にもわかりません。
なおモンゴル帰国後は、コロナ感染の有無に関わらず全員がホテル東横インなどの施設で21日間隔離生活を送り、その後自宅待機期間が14日間あります。チャーター機のチケット代と帰国後の21日間隔離費(合計で最低10万円)は自腹です。
国政選挙の裏側で
モンゴルでは6月24日に大イベントの国政選挙が実施されました。結果は与党である人民党の圧勝。理由はいろいろあると思われますが、一つには国内のコロナ感染を最小限に抑えこんでいることがあるようです。これは本当に素晴らしいことです。
しかしこの成功の裏で国境が閉じられ、海外で1万人が立ち往生しています。国内のモンゴル人の中には「海外からの帰国者はウイルスを持っている」と考える人がいて、人民党にとって国境を封鎖し続けることが彼らの支持を得ることにもつながったそうです。
足止めされているモンゴル人が特に多い国が韓国、日本、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ。韓国では6月に空港での座りこみなど強い抗議運動が行われ、7月中にチャーター機がソウルへ6回(1回はヨーロッパからのトランジット)飛ぶことが決まりました。
モンゴルでは6月30日まで発令されていた高度警戒準備体制が、7月15日まで延長することが発表されました。ここまでストイックな感染予防策を実施してきているので、7月11日の国民的祭典ナーダム祭りはさすがに中止になるかな?と思っていたのですが、開催するそうです(地域によっては無観客で)。
目玉競技の子ども競馬では、騎手の子どもたちがマスクを着けて25kmの長距離レースを駆けるという話です。お祭りをやる前に海外で困窮する自国民を帰国させることのほうが重要であり、ナーダム開催にかかる予算をチャーター機に回すべきだ、という批判もモンゴル国内から出ています。
余談ですが、海外に足止めになっていた日本人の帰国希望者は、6月始めまでにチャーター機または臨時便で全員が日本へ帰ってこられました。
日本はこれから本格的に暑くなります。帰りたいのに帰れないモンゴル人たちが1人残らず無事に帰れるよう、私も取材しながら見守っていきたいと思います。