モンゴル式? 日本式? 朝青龍と流れ星

2001年の夏、モンゴル南西部のゴビアルタイ県へ車でむかう道中で、山の上の遊牧民宅に泊めてもらいました。

夜空には、光る砂つぶのような星が地平線までびっしり……!
空を二分して伸びるのは、白い天の川(ゴビの人は「天の縫い目」と呼んでいた)。
2つの衛星がそれぞれの軌道でゆっくり移動するのも肉眼で見えました。

ヒュンヒュンと次から次へ流れる星に驚いていたら、隣にいた双子の女の子テムジンちゃんとテムリンちゃんが「私じゃない! 私じゃない!」と叫び出しました。急にどうしたんだろう!?と不思議でしたが……。

モンゴルと日本では、流れ星に対する考えかたが違います。

写真家の野村誠一さんの本『横綱 朝青龍』に、朝青龍と流れ星の話が書かれています。

朝青龍からこんなエピソードを聞いた。
負傷のために休場した名古屋場所を終えて、モンゴルに帰国したときのことだ。モンゴルで地元の友人たちと星空を眺めながら語り合っていた。
夜空に、流れ星が消えていくのが見えた。朝青龍はすかさず、星に祈ったという。
ーー早く怪我が治りますように……。
それを見ていた友人たちがいぶかしがる。
「ドルジ、お前、何をしているんだ?」
朝青龍は友人たちに説明した。日本では、「流れ星に願い事をすると、それがかなえられると信じられている」ということを。
モンゴルでは、流れ星は不吉な前兆を表しているという。
「モンゴルは日本と逆で、絶対に流れ星を見ちゃいけないんです。『人が死ぬ』という意味だから。人間は生まれたときに星をもらえる。でも、流れてなくなってしまうということは死んでいくということだから」
モンゴルでは、流れ星を見たら「トゥイ、トゥイ、トゥイ、私のじゃない、あれは人の星」と言う習慣があるという。今、目の前を流れた星が、自分の星ではないことを願うのだという。
その晩、何度も何度も流れ星を見た。朝青龍は友人たちを説得した。
「モンゴルの友だちはみんな不吉に思っていたけど、俺、言ったんだよ。『どっちにしても迷信なんだから、日本風に、いいほうに考えたほうがいいじゃない』って。そうしたら、みんな願い事を始めていたよ」
その晩、モンゴルの友人たちと朝青龍は何度も何度も、流れ星に向かって手を合わせて願い事を唱えたという。

出典:『横綱 朝青龍』野村誠一・著、ゴマブックス社、2008年