2023年3月に池袋のマンションに住む中国人の男女2人が、ガス会社の業者を装った強盗団に現金100万円余りと複数のパソコンを盗まれるという事件が発生しました。
強盗団8人のうち3人がモンゴル人で、1人は被害者に刃物で抵抗されて死亡。残り2人は事件後モンゴルへ逃亡して国際指名手配されたそうです。ある記事によれば3人は2019年に来日し、今年3月~5月にかけて在留資格が切れていたとのこと。20代の若者だという彼らの “上” には誰がいたのか、気になっていました。
その続報が昨日出て驚きました。指示者だという人物が、チャイニーズ・ドラゴン創設メンバーの1人と言われる男性だったからです。チャイニーズ・ドラゴンは中国残留孤児2世を中心に結成したグループ(現在は準暴力団に指定)で、もともと江戸川区葛西が拠点でした。葛西に残留孤児の学生寮があるためで、学校でいじめに遭いやすい自分たちを互いに守り合うためにグループ化したそうです。
残留孤児というのは、戦前に満州国を作るために日本から大陸へ移住したものの、終戦前後に日本へ帰ることができず、中国の東北地方に残されて現地の中国人に育てられた日本人の子どものことです。1972年の日中国交正常化後、日本にいる肉親に会いたいと一部の残留孤児が帰国することがあり、たびたびニュースになりました。しかし日本語が話せない彼らのその後の人生は、非常に厳しいものだったようです。
私は葛西地区で育ったので、子どもの頃ドラゴンのメンバーを近所で見かけることがありました。しかし今回逮捕された容疑者が昨年出した著書を読んで、ドラゴン(かつての名前は怒羅権)が誕生した背景には残留孤児たちの孤独や苦悩があったことを知り、物事を一面だけから見てはいけないものだと思いました(だからといって犯罪を肯定することはできません)。
この容疑者はドラゴンを脱退した後、受刑者の支援活動をするNPOを立ち上げて活動に励んでいて、ごくたまにYouTubeなどでインタビューに答えることもありました。私がモンゴルの話を連載している雑誌「月刊望星」でも昨年長文の連載を持っていて、文章が上手なのが印象的でした。
実行犯のモンゴルの3人は、もともと就労ビザで日本に滞在していた可能性が高いです。最近増えている技能実習生だったのかもしれませんが、詳細は不明です。今回の事件で1人は命を落とし、2人は国際指名手配されることになり、来日時はこんなことになるとは思いもしなかったはず。この事件には移民、外国人労働者、残留孤児など多くの問題が絡んでいます。
コロナ禍が落ち着き、日本政府は移民を増やす方向に舵を切っているので、日本で暮らす外国人は今後増え続けていきます。在留モンゴル人の数も1万6千人近くに増えました(2022年末時点)。なおここには中国籍である南モンゴル人(内モンゴル自治区出身者)は含まれていないので、実際日本にいるモンゴル人の数はもっと多いです。日本人の目には触れにくいですが、彼らには彼らのコミュニティーがあり、情報が飛び交っています。その中には「仕事を探している」あるいは「仕事を紹介する」といった情報もあります。
今回の事件に関し、日本で暮らす他のモンゴル人たちからは「モンゴル人の名を汚して許せない」といった声が出ています。